

コロナ禍による業績不振を理由とした解雇・雇止めが数多く発生しています。これはある程度は避けがたい成り行きとも言えますが、違法な解雇・雇止めが横行しているという指摘もあり、なかには違法性を自覚しないままに安易な人員整理に踏み切っている例もあるようです。
不当な解雇・雇止めは労働紛争のリスクをはらんでおり、訴訟コストの発生、信用毀損、社内エンゲージメント低下といった幅広いデメリットを伴います。
難局においてこそコンプライアンスと経営力が試されると言えるのではないでしょうか。このページでは人員整理を検討する際に念頭に置くべき法的留意点を整理しておきます。
正規労働者の整理解雇を行う際の留意点
雇用関係は会社と労働者の間の契約によって成立し、合意によっていつでも解約することが可能です。一方、合意によらず、会社側からの申し入れによって労働契約を解約する(=解雇する)場合には、各種労働法の規定に則ったやり方が求められます。
業績不振を理由として人員整理のために行われる解雇を整理解雇と呼びます。ここではまず、契約期間を定めずに雇用した労働者(いわゆる正規労働者)の整理解雇について法的な問題点をまとめます。
整理解雇についての民法と労働法の規定
民法(第627条)では、契約期間を定めずに雇用した従業員については予告期間を設けた上でいつでも解雇が可能とされています。予告期間についての定めはありますが、解雇の理由は問われません。
整理解雇が許される条件については判例によって確立した基準があり、その一部は労働契約法に明文化されています。また、差別的な理由により解雇することは男女雇用機会均等法などにより禁止されており、解雇予告期間は労働基準法に民法とは別の規定があります。民法と衝突する事項についてはこれらの労働法規の規定が優先されます。
会社と従業員の合意による辞職にはそういった制約はありませんが、たとえ形式的に合意が成立していたとしても、裁判では労働者の真意と労働の実態が問われ、合意が無効とされる事態も起こりえます。
整理解雇が有効とみなされるための4基準
労働契約法(第16条)では、「客観的に合理的な理由を欠き」「社会通念上相当であると認められない」解雇は使用者による解雇権の濫用であり無効であると規定しています。具体的には次の4つの基準が解雇権濫用の判定で考慮されます。
【整理解雇が解雇権濫用と見なされないための基準】
- 人員削減の必要性が明確
- 解雇回避のための措置(配転・出向、一時休業、役員報酬削減など)が図られている
- 解雇対象者の選定基準が合理的で、公正に適用されている
- 労働組合との協議や解雇対象者への説明が十分に行われている
新型コロナウイルスと自粛の拡大を受け、国や自治体は資金繰り融資の新設や条件緩和、納税猶予、各種助成金などの支援策を打ち出しています(※)。最低でもこれらの支援策を活用して可能な限り雇用維持を図った上でなければ、解雇権濫用と見なされるリスクはかなり高いと言えるでしょう。
※)経済産業省「新型コロナウイルス感染症関連」
https://www.meti.go.jp/covid-19/
雇用に直接関係するところでは、雇用調整助成金の上限額引き上げ、助成率拡充、申請手続簡素化という特例措置が実施されています。整理解雇に踏み切る前に、雇用調整助成金により一時的に雇用調整(休業・教育訓練・出向)を行いつつ、他の支援策も活用して事業継続を図ることが望まれます。
解雇予告期間と解雇制限期間
労働基準法(第20条)によれば、会社の事情で解雇を行う場合少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分(以上)の平均賃金(いわゆる解雇予告手当)を支給する必要があります。20日前に解雇を予告し10日分の解雇予告手当を支払うなど、手当と予告期間の相殺も可能です。
解雇の責任を従業員に帰す場合や、天変地変・大火事などの突発的かつ対処しようのない出来事で事業が継続不可能になった場合には、労働基準監督署の認定により例外的に即日解雇を実施できるとされています(同条)。新型コロナウイルスによる業績不振は一般的には後者の基準には当てはまらず、認定を受けることは難しいでしょう。
なお、日雇いや短期契約による場合や、試用期間中の従業員については即日解雇が可能な場合があります(同法第21条)。ただし、すでにある程度継続的に雇用している場合は第20条と同じ条件が課せられます。
労働災害により休業する従業員と労働基準法第65条に基づき産前産後休業をとる従業員に対しては解雇制限期間があり、いずれも休業期間と復職後30日間は解雇することができません(同法第19条)。
有期労働者の雇止めを行う際の留意点

期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を結んでいる従業員を契約期間中に解雇する際には、正規労働者の解雇よりも一層厳しい条件が課されます。また、契約期間が満了しても契約更新拒否(=雇止め)が無条件に行えるわけではないという点に注意が必要です。
有期労働契約の契約途中での解雇
契約途中の整理解雇は「やむを得ない事由」がない限り許されません(労働契約法第17条)。この「やむを得ない事由」が具体的にどのようなものを指すかは個々の状況により異なりますが、正規労働者を解雇する場合の「合理的な理由と社会的相当性」という条件よりも厳しい条件であることを承知しておく必要があります。
雇止めが認められない場合
有期労働契約は形式としては一定期間で満了する契約ですが、判例や労働契約法は労働の実態を重視する立場を取っています。
実態として期間の定めのない労働契約と同然の労使関係にあると見なせる場合や、労働者側に契約更新を期待するだけの合理的な理由がある場合には、雇止めに際して正規労働者の整理解雇と同様の条件(客観的合理性・社会的相当性・上記4基準)が求められます。これらの条件を総合的に勘案して雇止めが不当だと判断されれば、従前と同じ条件で有期契約が更新されることになります。
実態の判断では次のようなポイントが考慮されます。
- 業務の実態(業務が臨時的・季節的なものか、それとも恒常的なものか)
- 当事者間の認識(雇用継続に関して当事者間でどのような言動・認識があったか)
- 契約更新の実態(これまでに契約更新がどれほど反復されていたか。職場内に他に雇止めの例はあったか)
退職勧奨を実施する場合の留意点

退職勧奨とは、特定の従業員に対し自主的に退職してくれるように誘いを持ちかけることです。退職金の加算や再就職先あっせんなどのインセンティブを用意し、退職勧奨の目的や人選について合理的に説明した上で、勧奨を受け入れるかどうかは従業員の意思に任せるのが本来の姿です。
ところが、拒否の意思を示しても勧奨を執拗に繰り返したり、長時間の拘束や暴言を加えたり、大幅な減給や不利な配転との二者択一を迫ったり、勧奨に応じなかったことへの報復的な人事を行ったりする例が横行しています。整理解雇・雇止めの制約を避けるために単なる建前として退職勧奨の形をとっているわけです。
これらの行為は人格的利益を侵害する不法行為(民法709条)に問われ、損害賠償の責任を負います。また、そのようなやり方で退職の合意を得られたとしても、従業員の真意に基づくものではなかったとして裁判で無効になったり取り消されたりする可能性が高いと言えます(民法第93条、第96条)。
そうした本末転倒の事態に陥らないよう、適正な準備と態度のもとで退職勧奨にのぞむようにしてください。