

Q:当社では、従業員の職務専念を確保するために副業を行うことを就業規則にて定めています。それにもかかわらず、従業員が副業していることが判明しました。このような場合、解雇等の処分をとることはできるのでしょうか。
A:副業は労働者が自由に行うことができるのが原則であり、それを就業規則にて制限しているということになります。従業員は、就業規則に従わなければならないということになります。しかし、従業員が就業時間外に当該副業を行った場合には、会社での業務に影響がないことになるため、無許可で副業をした場合であっても①企業秩序を乱すことになる、または②会社での業務に支障を生じさせることになるようなものでない限り解雇をすることはできないことになります。
1. 就業規則における定めについて
近年では副業が本業に与える影響を考慮して副業を推進することが増えてきています。しかし、企業によっては、自社における業務活動に影響が出ないようにするために、従業員の副業を禁止することがあります。
多くの場合、就業規則に副業(兼業)を禁止することを内容とする規定を設けて、その旨を従業員に示すとともに、従業員と会社との決まり事としています。しかし、就業規則が従業員との間の契約内容になるためには、当該就業規則に定められた労働条件が「合理的」でなければなりません(労働契約法7条)。すなわち、不当に従業員の権利・利益を侵害したり、社会的に非難されるようなものについては、従業員との間の労働契約の内容とはなりません。
そもそも、副業を禁止する内容は、合理的な労働条件であるといえるのでしょうか。上記の通り、不当に従業員の権利や利益を侵害してはいけないことになりますが、そもそも副業は業務時間外における従業員の活動であり、業務時間外の活動についてまで会社は口出しをすることができるのでしょうか。
この点について、以下の裁判例がありますので、簡単にご紹介します。
【東京地裁昭和57年11月19日】
事例:下記2.(1)参照
争点:副業を許可制とする規定の効力
判断:法律で兼業が禁止されている公務員と異なり、私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。労働者がその自由な時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたい旨判示しました。すなわち、企業が終業時間外の従業員の活動について関心を持ち、それによる弊害が生じることを防ぐために副業を許可制とすることは不当ではないとして、就業規則の合理性を肯定しました。
2. 就業規則に違反した場合の効果
上記の通り、副業を禁止する内容の就業規則は合理的なものと考えられるため、そのような内容が就業規則に定められていれば従業員と会社との間の労働条件になります。そして、多くの就業規則については、就業規則違反について解雇事由(普通解雇事由や懲戒解雇事由)として規定しています。文理を単純に解釈すれば就業規則違反があった場合には、解雇をすることができそうです。
しかし、労働契約法は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(同法16条)とし、また、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」(同法15条)として、従業員の地位が不当に害されることがないようにしています。
つまり、副業禁止を就業規則に定めているからといって、副業をしたら必ず解雇ができるわけではなく、解雇には客観的合理性・社会的相当性が要求され、これらを満たさない限り解雇は無効になります。
普通解雇と懲戒解雇はそれぞれ客観的合理性・社会的相当性の求められる水準が異なるため、以下各類型に合わせて裁判例を紹介します。
(1)普通解雇
上述の東京地裁昭和57年11月19日は、事例としては建設会社の事務員として働いていた従業員が会社の許可なく、キャバレーで会計係として働いていたため、「普通」解雇をしたという事例です。
裁判所は、従業員の兼業の職務内容は、会社の就業時間とは重複してはいないものの、軽労働とはいえ毎日の勤務時間は六時間にわたり、かつ深夜に及ぶもので、単なる余暇利用のアルバイトの域を越える。したがって当該兼業が会社への労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高いものとみるのが社会一般の通念である。また、事前に会社への申告があった場合には当然に会社の承諾が得られるとは限らないものであったことから、従業員の無断二重就職行為は不問に付して然るべきものとは認められないと判断し、会社による普通解雇の有効性を肯定しました。なお、当該事案では、深夜に及ぶ長時間の副業であり、居眠り等現実の業務の提供に支障が生じていたという事情があり、それが具体的な労務の誠実な提供に支障をきたすものと評価されたと考えられます。
(2)懲戒解雇
浦和地裁昭和40年12月16日を紹介します。同事件の事例は、病気を理由として休職していた従業員が、工場経営をする知人の頼みにより、1日約2、3時間程度で約10日間程度当該工場の業務を手伝い、その対価として1200円を受領しました。そのような事情から、勤め先企業が兼業禁止規定に違反するとして懲戒解雇処分を行ったというものです。
この事件において裁判所は、就業規則において二重就職が禁止されている趣旨を、従業員が二重就職することによって会社の企業秩序を乱し、または従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると認定し、就業規則にいう二重就職とはそのような弊害があるものをいい、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解されるため、懲戒解雇は許されない旨判事しました。
要するに、就業規則において禁止されている二重就職とは、企業秩序を乱したり、従業員による労務提供を不能もしくは困難にするものであり、それ以外のものは含まれず、そのような副業を行った場合には懲戒解雇は許されない旨示したということになります。
(3)まとめ
上に述べた通り、就業規則に副業禁止を規定しており、かつ、当該規定に違反したとしても必ずしも解雇することができるというわけではないことになります。副業を禁止したとしても、あくまでも就業時間外の自己の時間を利用しているだけということです。しかし、当該副業が単に就業時間外の活動にとどまらず、企業秩序を見出したり、本業における業務に支障をきたしたりする事情があるなど、解雇することが客観的合理性を有し、社会的相当性を有する必要があります。
これらを前提に、就業規則によって禁止される副業を従業員が行っていることが判明した場合には、具体的にどのような副業を、どの程度の時間行っているのか、そしてその活動が企業秩序を乱したり、企業における労務提供に何らかの支障を生じさせているかを慎重に検討・確認の上、適切な対応を行う必要があります。