

1 インターネットにおける契約の締結
契約は、書面で締結することが長らく主流でしたが、昨今、インターネット上で契約を締結するケースがみられるようになってきました。
契約を締結する方法について特に制限はないため、書面や口頭、インターネットで契約を締結しても問題ございません。インターネット上で契約締結する場合についても、原則としては、民法その他民事法が適用されることになり、これは書面や口頭で締結する場合と相違はありません。
もっとも、契約をインターネット上で締結する場合には、民法の特別法としての電子契約法が適用されることになります。これは、インターネット上での契約の締結には非対面性、匿名性、公共性といった特殊性があるためです。
電子契約法によって、民法の一般原則、例えば無効の規定や契約の成立時期等が修正されています。インターネット上で契約を締結する場合には、電子契約法の定めに注意する必要があるほか、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(経済産業省)を参照する必要があります。
2 操作ミスによる契約の成立について
インターネット上で契約を締結する場合、インターネット上の誤操作によって契約が成立してしまうケースがあります。
例えば、野菜ジュースを10本注文するつもりが、誤って100本注文してしまうような場合です。
この場合、民法の規定によれば、契約は成立こそしますが、申込みの意思表示は錯誤として無効になるのが原則です(民法第95条本文)。もっとも、注文者に「重大な過失」がある場合に限って、契約は有効となります。よって、民法の一般原則に従う場合、インターネット上の誤操作は「重大な過失」として、契約が有効となってしまう可能性があります。
そこで、上記のような不都合を手当てするため、インターネット上の契約については、電子契約法による修正がなされており、注文を受け付ける事業者が、注文者による申込み内容の「確認を求める措置」を講じていない場合は、契約は原則通り無効となります。
確認措置としては、例えば、確定的な申込みの送信前に、申込み内容を改めて表示し、訂正する機会を与える画面を表示することなどが考えられます
なお、改正民法では錯誤の規定(民法第95条)は「無効」ではなく「取消し」となりますが、上記の扱いに変更はないものと思われます。

3 契約成立のタイミングについて
契約の成立のタイミングは、契約実務上非常に重要です。
旧民法によれば、契約の両当事者が対面していない場合、承諾側が承諾の通知を発した時点で契約が成立します(旧民法第526条1項)。
もっとも、インターネット上で契約を締結する場合は、承諾の通知を発してから相手方に到達するまでの間にタイムラグは生じません。よって、相手方に到達した時点で契約が成立します(電子契約法4条、民法97条1項)。
何をもって到達と評価できるかですが、申込者のモニター画面上に承諾通知が表示された時点で到達と考えてよいものと思料いたします。
なお、2020年4月の民法改正により、インターネット上の契約に限らず、承諾の通知が相手方に到達した時点で契約が成立するよう変更されました。
4 インターネット上の契約の証拠としての価値
民事訴訟において、契約書は証拠としての価値が高いことが通常です。なぜなら、民事訴訟法において、書面は本人の署名又は押印がある場合に、真正に成立したものと推定する(民事訴訟法第228条4項)とされているからです。この規定によって、押印の印影が本人名義である限り、書面の内容がそのまま認定されることが通常です。
もっとも、インターネット上で契約を締結した場合は、この民事訴訟法の規定は適用されません。インターネット上の契約については、「電子署名法」 という別の法律に従う必要があります。
電子署名法によれば、一定の要件を満たした電子署名について、書面による契約書と同様に扱われることになります。電子署名法の定めは複雑で、書面による契約と同視されるための要件充足性については慎重に吟味する必要があり、通常は弁護士を交えて検討することになります。