

Q:他社が、当社の発明に関する情報を不正に取得の上、当該発明につき特許権を取得していたことが判明しました。当社が当該特許に関する権利を主張・取得する方法はありますか。
A:特許法に基づき、当該特許権は自分の発明によるものであることを主張して当該特許権を取得した者に対して当該特許権の移転を請求することができます。
まずは、訴訟外で権利の移転を請求することになりますが、相手方が任意での権利移転に同意しない場合には、裁判所で移転を請求する必要があります。
その際には、当該発明が自社の発明に基づくものであることを一定程度主張・立証しなければならないため、発明の経緯、情報が不正に取得され特許の出願に至った経緯等を詳細に説明できる準備をしておくことが望ましいと考えられます。
1 特許を受ける権利と冒認出願
特許権は、憲法上の人権のような自然発生的な権利ではなく、国家が法律により認めることで発生する権利ということができます。つまり、国家が当該技術・発明について特許を認めて初めて、権利として主張することができます。
ある発明が特許として認められるための手続きが特許出願(法第36条)です。そして、特許出願をするためには、当然新規技術の発見又は開発等の発明が必要になります。
通常、発明をした者が、自ら特許出願を行いますが、職務発明制度(法第35条)や、特許を受ける権利の譲渡が認められているため、必ずしも発明者のみが出願するわけではありません。当然ながら特許を出願するには特許を受ける権利を有する必要がありますので、ある発明について誰でも特許出願をして特許権を取得できることにはなりません。
しかし、何らかの方法により当該発明を自分のものとした上で、出願をして特許権を取得してしまうという例も存在します。このような、特許を受ける権利を有しない者(以下便宜上「無権利者」といいます。)による特許の出願を冒認出願といいます。
2 従来の冒認出願による問題点
法改正により既に解消されていますが、改正前には、無権利者が特許による恩恵を受けられないようにする制度は存在していたものの、その後に発明者等の真の権利者が正当な利益を得ることまでは保証していませんでした。
無権利者はそもそも特許権付与の要件を満たさず、特許を受けられないことが原則です。万が一無権利者が冒認出願をし、それが看過されて無権利者に特許権が付与されてしまった場合であっても、当該特許は無効なものであり、権利化後であっても法的手続きを経ることで無効にすることが可能でした。
他方、すでに特許出願された発明と同一内容のものについては、特許権の付与が認められないこととされていました。そのため、すでに出願されたものが冒認出願であり無効とされた場合であっても、発明者等の真の権利者による後発の特許出願は認められていませんでした。

3 法改正による解決
平成23年特許法改正により、冒認出願等により無権利者に対して特許権が付与されてしまった場合に、登録された特許権にかかる権利者を無権利者から真の権利者に対して移転することを求めることができるよう規定が設けられました(特許法第74条第1項)。
この法改正により、冒認出願をされた真の権利者が特許を取得できないという状態は解消されました。
しかし、上記の権利の移転に関する請求は、あくまでも任意に応じることを前提とするものであり、無権利者が任意の移転手続きに応じない場合には法的な手続き経ることにより移転手続きを行う必要があります。
訴訟等の法的手続きにおいては、立証責任という概念が用いられます。簡単にいえば、ある事実の存否が明らかにならなかった場合に、その存否不明の不利益を訴訟当事者のいずれが負担するかということです。訴訟等においては、自分に有利となる事実について立証責任を負うことが多いといえます。
上記の法的手続きに関連して裁判所は、「特許出願がその特許にかかる発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」はその時点の特許権者(上記でいえば無権利者)が立証すべきとしています。
しかし他方で、その立証の程度は冒認を主張する側(上記で言えば真の権利者)が主張する
- 冒認を疑わせる具体的な事情の内容
- 立証活動の内容
により変更される可能性がある旨も言及しており(審決取消請求事件一知高判平成29年1月25日参照)、冒認であることを主張する側も一定の立証活動をする必要があるということになります。