

1 特許権の属地主義
特許権は、特許法第68条によれば、特許発明の実施を専有する権利で、「専有」とは、独占することを意味し、特許を取得した者は特許権が発生している発明を独占的に使用することができます。
もっとも、特許権はその取得した国・地域のみに適用されるので、他の国では効力がありません。したがって、「国際特許」たるものは存在せず、これを特許権における属地主義の原則といいます。
2 PCT国際出願について
万国において効力を有する「国際特許」は存在しませんが、それに似た発想の制度として、「PCT国際出願」があります。
正式名称は、「特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願」と呼ばれています。この制度を使えば、ある特許協力条約に加盟する国において特許出願する際、この条約に従った手続きをすることにより、条約に加盟するすべての国に同時に出願したことになります。
例えば、日本人の場合、日本の特許庁に対して日本語又は英語で作成した国際出願願書を1通提出すると、それによって国際出願に与えられた国際出願日が、すべての特許協力条約に加盟する国においての出願日となります。
また、PCT国際出願には、他にもメリットがあり、出願の手続を簡素化するだけでなく、独自の便利な制度も用意されています。
例えば、PCT国際出願をすると、出願した発明に類似する発明が過去に出願されたことがあるかどうかの調査が、すべての国際出願に対して行われます。その際、その発明が新規性などの特許取得のために必要な要件を備えているかどうかについての審査官の見解も確認することができるので、出願人は、自分の発明の評価をするための有用な材料とできます。また、出願人の希望により、特許取得のための要件充足性についての予備的な審査を受けることも可能です。
PCT国際出願は、あくまで出願の簡素化なので、出願以降の手続き、費用の支払いは国毎に行わなくてはならないので、通常膨大な時間と費用がかかりますが、これらのPCT国際出願の独自制度を利用することで、特許取得の可能性を検討し、厳選した国においてのみ手続を進めることで時間と費用の適正化が可能となります。
出願者は、厳選した国において、各国内の特許取得手続に移行し、各国の法令に従って特許を取得していくことになります。これを国内移行手続と呼びます。
国内移行手続を行うにあたり、権利を取りたい国が認める言語に翻訳した翻訳文をその国の特許庁に提出し、手数料を支払うことになります。

3 外国の特許権についての司法判断
アメリカ合衆国の法律では、自国の法律を外国に適用させることがしばしばあり、米国の特許法でもこれが認められています。
「アメリカ合衆国において認められた特許権を侵害する商品が国外から輸入された場合、政府は、当該商品の輸出国での製造を差し止めることができる」という内容です。
もっとも、当該規定が国外においても効力を有するかどうかは別の話です。
かつて、アメリカ合衆国の特許権を取得した者が、アメリカ合衆国の特許権を侵害する商品を販売する日本企業に対し、日本の裁判所において、上記米国の特許法に基づき日本国内での商品製造を差し止める訴訟を提起しました。本件訴訟の原告は、日本においては特許を取得していませんでした。
日本の最高裁判所は、「我が国においては、外国特許権について効力を認めるべき法律又は条約は存在しないから、米国特許権は、我が国の不法行為法によって保護される権利に該当しない。したがって、米国特許権の侵害に当たる行為が我が国においてされたとしても、かかる行為は我が国の法律上不法行為」とはならないと判示しています。
つまり、日本においてはアメリカの特許権は効力を有さず、これを保護する法律も条約もないため、日本でアメリカの特許権を侵害しても違法とはならないとの判断です。
諸外国においても、外国の特許権については日本の裁判所と同様の見解であることが多く、特許権を取得していても外国では効力がないので、自社の製品などを外国においても展開する可能性がある場合、PCT国際出願の利用も念頭に置きつつ、複数国での特許取得も検討する必要があります。