

1 従業員が会社決裁を得ないで契約締結してしまうケース
会社の従業員が、会社の決裁を得ないで相手方と契約締結してしまった場合、当該契約は有効に成立しているかが問題になります。
このような場合、当該契約を締結した従業員が、会社において、どのような事項の委任を受けた者であるかが問題になります。また、実務上、当該契約を締結した従業員の権限を信頼した相手方を保護する必要もあります。
以下、契約締結をした者が、会社の代表権や契約締結の代理権を有していなかった場合の契約の有効性について検討します。
2 会社を当事者とする契約の成立
会社が当事者となって契約を締結する場合、会社の代表者や契約締結の代理権を有する者との間で意思が合致すれば、会社との間で契約が成立します。
また、個人間での契約の場合と同様、契約を締結した者が、会社の代表権や契約締結の代理権を有していなかった場合、無権代理として、このような契約は、会社との関係では原則として無効になります。

3 会社の代表者や契約締結の代理権を有する者
会社法では、会社の代表者や代理人として、
- 代表取締役、取締役(会社法第349条)
- 支配人(会社法第11条)
- 会社の本店又は支店の事業の主任者(会社法第13条)
- 委任を受けた使用人(会社法第14条)
- 物品の販売等を目的とする店舗の使用人(会社法第15条)
を規定しています。
会社法がこれらの者を会社の代表者や代理人としたのは、これらの者に会社の代理権が帰属していると判断する取引相手の保護にあります。
4 会社の代表者や契約締結の代理権を有しない者とした契約
前記2で述べたとおり、契約締結をした者が、会社の代表権や契約締結の代理権を有していなかった場合、無権代理として、このような契約は、会社との関係では原則として無効になります。
もっとも、契約締結をした者が会社の代表権や契約締結の代理権を有していると信頼した、相手方の保護も必要になります。
そこで、実務上は、取引相手から見て、客観的に、契約締結を任された者が、会社から当該契約締結の代理権を与えられていると判断できるような事情があれば、実際には会社から委任を受けたことを示さなくとも、会社の代理人として認められます。そして、そのような契約も有効になります。
5 まとめ
上記を踏まえると、契約締結をした者が、会社の代表権や契約締結の代理権を有していなかった場合でも、その者が会社の代理人と認められる場合には、契約は有効となります。
また、契約締結をした者が、
- 代表取締役、取締役(会社法第349条)
- 支配人(会社法第11条)
- 会社の本店又は支店の事業の主任者(会社法第13条)
- 委任を受けた使用人(会社法第14条)
- 物品の販売等を目的とする店舗の使用人(会社法第15条)
に当たる場合にも、契約は有効となります。
さらに、契約締結をした者が、会社の代表権や契約締結の代理権を有していなかった場合でも、取引相手から見て、客観的に、契約締結を任された従業員が、会社から当該契約締結の代理権を与えられていると判断できるような事情があれば、実際には会社から委任を受けたことを示さなくとも、会社の代理人として認められます。この場合にも、契約は有効になります。
会社としては、従業員が会社の決裁を経ずに契約を締結してしまった場合に、契約が有効となり予想外のリスクを負うことがないように、取引相手に対して、契約締結の担当者は、当該契約締結の代理権を有していないと伝えておき、取引相手から見て、客観的に、契約締結を任された従業員が、会社から当該契約締結の代理権を与えられていないと判断できるような事情を作出しておく必要があるといえます。