

1 消費者契約法の趣旨
前提として、民法の大原則としての契約自由の原則というものがあり、公序良俗等に反しない限りは、当事者間でどのような契約を結ぶのも自由です。
しかし、契約自由は絶対ではありません。契約の当事者間に圧倒的な交渉力の差がある場合等は、全てを当事者の自由に委ねることは社会全体にとって好ましくなく、一定の規制が必要です。
企業と消費者が取引をするにあたっては、企業の有している情報と消費者の有している情報量や質には大きな差があり(=情報の非対称性)、消費者にとっては自分に有利に交渉することは困難といえます。
消費者契約法は、このような場合に、消費者に契約の取消しや無効を主張する権利を与えることで、消費者の生活や経済の健全な発展に寄与することを目的としています。
また、取り消しや無効の主張の他にも、適格消費者団体による不当な行為の差止を可能としています。
2 消費者契約法第4条第1項第1号
消費者契約法第4条では、様々な類型の行為により締結された契約について、消費者による取り消しの余地を与えています。そのうち最も重要といえるのが、第1項第1号です。第1項の内容は、以下のとおりです。
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」
第1号の内容は、以下のとおりです。
「重要事項について事実と異なることを告げること 当該告げられた内容が事実であるとの誤認」
そこで、契約を取り消したい消費者としては、事業者が「事実と異なることを告げた」ことと、当該事実が「重要事項」といえることを立証できるかがポイントとなります。

3 「事実と異なること」及び「重要事項」
まず、「事実と異なること」とはどのような場合をいうのでしょうか。
消費者庁によれば、「事実と異なること」とは、「真実又は真正でないこと」と定義されています。「真実又は真正でないこと」とは、客観的な事実により判断できる内容をいいます。主観的な評価については、これにあたらないことがポイントです。
例えば、ある布団を販売するにあたり、羽毛100%でないにもかかわらず、その旨告げる行為がこれに当たります。これに対し、「とても暖かいですよ」と告げたにもかかわらず、購入者にとっては「暖かくなかった」という場合は、暖かいかどうかというのは主観的な判断なので、「真実又は真正でないこと」には該当しないことになります。
二つ目の要件の「重要事項」については、消費者契約法第4条第5項で、定義付けがなされています。消費者契約法第4条第5項の内容は、以下のとおりです。
「第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第三号に掲げるものを除く。)をいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
三 前二号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」
4 その他の取り消し事由
消費者契約法では、第4条第1項第1号の他にも、様々な取り消し事由が定められています。
例えば、不利益事実の不告知、断定的判断の提供、過量取引、不退去、退去妨害、不安をあおる告知、好意の感情の不当な利用、判断力の低下の利用、霊感等による知見を用いた告知、契約締結前の債務内容の実施等があります。
このような行為により契約を締結してしまった場合、消費者契約法は専門性の高い領域になりますので、弁護士とも相談の上、契約の取り消しを検討すべきです。