

1 クーリングオフ制度が問題になる場面
会社の従業員が、個人の自宅を訪問して販売した商品に関して、後になって、顧客から、購入を取りやめたいとの連絡を受ける場合があります。
このような場合に、顧客の求めに応じて、契約解約に応じなければならないのかというのが、まさにクーリングオフ制度が問題になる場面になります。
以下、クーリングオフ制度について、詳しく検討していきます。
2 クーリングオフ制度の概観
クーリングオフ制度とは、一度契約の申し込みや契約の締結をした場合でも、消費者が契約について考え直すことができるようにし、一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる制度をいいます。
クーリングオフをすると、契約は遡及的に無効(=初めからなかったこと)になります。消費者は、代金の支払い義務がなくなり、相手方に支払った代金も返金されます。また、返品する商品の引き取りや工事等を元に戻すための費用も、相手方の負担になります。
この制度の趣旨は、一般に、訪問販売や電話勧誘販売などの不意打ち的な販売方法により、消費者に十分な情報と冷静な選択の機会が確保されないまま、意思不確定な状態で契約してしまうことが多いことから、契約締結後に書面による正確な情報が提供されたうえで、冷静に再考する機会を与えるものとされています。
すなわち、クーリングオフ制度は、消費者保護の制度といえます。

3 クーリングオフ制度の適用要件
(1)主体
クーリングオフ制度を利用できる主体は、同制度の趣旨が消費者保護にあることから、消費者になります。
そのため、個人事業主、法人、企業などが締結した契約については、クーリングオフ制度を利用することができません。
(2)金額
訪問販売及び電話勧誘販売における代金3,000円以上の取引については、クーリングオフ制度を利用することができます。
(3)契約の種類及びクーリングオフ期間
クーリングオフ制度が適用される契約の種類及びクーリングオフ期間は、下記のとおりです。
- 訪問販売(特定商取引に関する法律第9条及び第9条の2)→書面受領日から8日間。ただし、過量販売の場合は、書面受領日から1年間。
- 電話勧誘販売(特定商取引に関する法律第24条)→書面受領日から8日間。
- 連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)(特定商取引に関する法律第40条)→契約書面受領日から20日間。ただし、商品再販売の場合は、契約書面受領日か最初の商品受領日の遅い方から20日間。
- 特定継続的役務提供(特定商取引に関する法律第48条)→契約書面受領日から8日間。
- 業務提供誘引販売取引(特定商取引に関する法律第58条)→契約書面受領日から20日間。
- 個別信用購入あっせん(割賦販売法 第35条の3の10~12)→書面受領日から8日間。特定連鎖販売個人契約及び業務提供誘因販売取引については契約書面受領日から20日間。
- 預託取引契約(現物まがい商法)(特定商品等の預託等取引契約に関する法律第8条)→契約書面受領日から14日間。
- 宅地建物取引(宅地建物取引業法第37条の2)→契約書面受領日から8日間。
- ゴルフ会員権契約(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律第12条)→契約書面受領日から8日間。
- 投資顧問契約(有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律第17条)→契約書面受領日から10日間。
- 保険契約(保険業法第309条)→契約書面受領日から8日間。
(4)クーリングオフの適用除外
訪問販売、電話勧誘販売は、原則すべての商品・役務と特定権利がクーリングオフ制度の適用対象となっていますが、同制度の適用が除外される取引があります。
具体的には、以下の場合などは、クーリングオフ制度を利用できません。
- 3,000円未満の現金取引
- 通信販売での取引
- 店舗での取引など
- 自動車・自動車リース
- 使用した消耗品(化粧品、健康食品など)
- 葬儀サービス
- 訪問購入の場合、自動車、大型家電、家具、書籍、CD・DVD・ゲームソフト類、有価証券など
- 営業としての取引